中央アジアと
ギルギット出土のAvadaana

 A.中央アジア出土のAvadaana

 ネパール系の写本においては、Divyaavadaanaにせよ、Avadaana%satakaにせよ、インドで作られたavadaana集は、根本有部に由来するものが多いが、中央アジアから出土した写本は、根本有部よりもむしろ有部に属するものが優勢であり、たとえ断片にせよ、ネパール系写本には伝わらなかった作品が多くある点で、貴重である。

 中央アジア出土の写本は、各国に別々に大規模・小規模なコレクションとして、保存されている。それらは湯山明によれば<註1>、次のようなものである:(a)Bower 写本、(b )Leningrad コレクション、(c)Pelliot コレクション、(d)ドイツTurfan 探検隊コレクション、(e)Steinコレクション、(f)Macartney-Hoernle 写本、(g)大谷コレクション、(h)Hackin コレクション、(i)Trinkler コレクション、(j)Mannerheim コレクション、(k)Huntington コレクション。

 これらのうち、最も大規模なコレクションである(d)ドイツTurfan 探検隊コレクションの断片写本は、Sanskrithandschriften aus den Turfanfunden, Vol.I〜VI[略号 I〜VI]として、写本の原文の転写と作品の同定の結果が報告されている。この成果から知られた、ドイツTurfan探検隊コレクションに属するAvadaanaの断片写本を以下に紹介する。

  (1) Cuu#dapanthakaavadaana        V 1349(+1465+1516)

 (2) Dhuuma(Dhuupa)-avadaana          V 1318

  (3) K#semaavadaana           V 1318

 (4) Valgusvaraavadaana            V 1318

  (5) Supriyaavadaana            III 873

 (6) Supriyaavadaana / Maitrakanyakaavadaana  V 1425(?)

  (7) Mandhaataavadaana              I 558; IV 558; V 1162

 (8) %Sro#nako#tikar#naavadaana        I 591

  (9) %Sro#nako#tikar#naavadaana        I 598

 (10) Viruupaavadaana              V 1186

  (11) Sahasodgataavadaana            V 1330, 1524

 (12) Svaagataavadaana              V 1124

  (13) 帝釈が織工に化して大迦葉に施食する話  V 1035

 (14) Pretaavadaana [韻文]          I 49; IV 49

  (15) Vimaanaavadaana [韻文]            I 49; IV 49

 (16) M#rgajaataka               V 1376

  (17) Ha#msajaataka               V 1376

 (18) 未同定のAvadaana  III 927(?), 982(?); V 1111(?), 1144(?), 1165(?), 1169(?), 1177(?), 1317(?)

 これらを順に説明する。

 (1)のV 1349(+1465+1516)の2断片は、Divyaavadaana[Divyaavadaana]の第35章Cuu#dapanthakaavadaana, [Cowell&Neil本]pp.485-487, 491-492に一致する。

(2)〜(4)の3つのavadaanaは、同じ写本(V 1318)の4断片のうち3断片(a, b, c)にそれぞれ書かれている。a断片はAvadaana%sataka 第9章Dhuupaavadaana, [Speyer本]I, pp.47-53に逐字的に一致する。b断片はAvadaana%satakaに一致箇所を見出だせない。だが内容はAvadaana%sataka第79章K#semaavadaanaにあたる。c断片のおもて面は、Avadaana%sataka第30章Valgusvaraavadaanaに部分的に逐字的に一致する。

 (5)のIII 873の1断片は、Divyaavadaanaの第8章 Supriyaavadaana, p.112.29f.に文面が似るが、しかし完全には一致しない。

 (6)のV 1425の危険な旅をする隊商の話の1断片は、Divyaavadaana第7章Supriyaavadaanaあるい はAvadaana%sataka第36章Maitrakanyakaavadaanaの話かと思われるが、しかしどちらにもよく一致しない。

 (7)のIV 558 (=I 558)とV 1162の3断片は、Divyaavadaana第17章Mandhaataavadaana, pp.215-222に文面が似るが、しかし別のものである。

 (8)のI 591の1断片は、Waldschmidt(1952)によって<註2>、有部の十誦律にある%Sro#nako#tikar#naavadaanaに合うことが確かめられた。

 (9)のI 598の1断片は、根本有部律皮革事(Gilgit MSS. Vol. III, Part IV, p.175. 6 seq.)およびDivyaavadaana第1章%Sro#nako#tikar#naavadaana, p.12.3f.に逐字的に一致する。

(10)のV 1186の7断片(5葉)は、Waldschmidt(1981)によって<註3>紹介された。これに類した説話をAvadaana%sataka第80章Viruupaavadaanaに見ることができるが、しかし別のものである。

(11)のV 1330の1断片とV 1524の1断片は、共に同一の写本の一部と思われるが、それらはDivyaavadaana第21章Sahasodgataavadaana, pp.309-310に一致する。

 (12)のV 1124の1断片は、Divyaavadaana第13章Svaagataavadaana, pp.177-179と文面がほぼ一致する。

 (13)のV 1035の1断片は、パーリのUdaanaのIII, 7 (Ed. PTS, 1885, pp.29-30) に対応する、 帝釈天が機織人に化作して、Mahaakaa%syapaに食を施す話であるが、avadaanaの一部かどうかは疑わしい。

(14)と(15)のIV 49のPretaavadaanaとVimaanaavadaanaの断片は、Udaana[varga], Anavataptagaathaa, Sthaviragaathaaと同じ写本に入っていたもので、avadaanaの名をもっている が、パーリ小部のPetavatthu(餓鬼事)とVimaanavatthu(天宮事)にあたるものである。この有部のK#sudraagamaに属するらしいIV 49 (= I 49) の写本については、Bechert(1974)の論考がある<註4>。

(16)と(17)のV 1376の1断片は、有部の十誦律において、Devadattaが酔象を仏に襲わせて殺そうとした時、他の比丘は仏を見捨てて逃れたのに対し、Aanandaだけが仏の傍から離れ なかったことに対する、前世の因縁物語として出された、M#rgajaataka(鹿本生)の末尾とHa#msajaataka(雁王本生)の初めの部分にあたる、断片である。十誦律の大正23巻263a-264bの箇所、鼻奈耶の大正24巻872c-873の箇所に対応する。この断片は、Schlingloff(1977)の論文<註5>の付録において、V. Stache-Rosenによって報告がなされた。

1) 湯山明先生が1988年の東北大学での連続講義で配布された資料に基づく。

2) E. Waldschmidt(1952): Zur %Sro#nako#tikar#na-Legende, Nachrichten der Akademie der Wissenschaften in G%ottingen, 1952, S.129-151.[再録:Von Ceylon bis Turfan, 1967, S.203-225.]

3) E. Waldschmidt(1981): Bemerkungen zu einer zentralasiatischen Sanskrit-Version des Viruupaa-Avadaana, Studien zum Jainismus und Buddhismus, Gedenkschrift f%ur Ludwig Alsdorf, <Alt- und Neu-Indische Studien, Nr.23>, Wiesbaden, S.341-358.

4) Heinz Bechert(1974): On a Fragment of Vimaanaavadaana, a Canonical Buddhist Sanskrit Work, Buddhist Studies in Honour of I. B. Horner, Dordrecht. pp.19-25. また 次の論文も参照のこと:H. Bechert(1982): A Collection of Minor Texts" from the Buddhist Sanskrit Canon, Prof. Jagannath Agrawal Felicitation Volume: Recent Studies in Sanskrit and Indology, Patiala. pp.89-94

5) D. Schlingloff(1977): Zwei Anatiden-Geschichten im alten Indien, Zeitschrift der Deutschen Morganl%andischen Gesellschaft, 127, S.381-385.

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