3. GopadattaのJaatakamaalaa
GopadattaがJaatakamaalaa[Jaatakamaalaa]を書いたことは、Somendraが彼の父 K#semendraの作った Bodhisattvaavadaanakalpalataaに付けた序文の第7・第8詩節から知られる。このSomendraの文は、Speyer(1895)によって指摘された<註1>。
Somendraの記述のほかに、GopadattaのJaatakamaalaaについてわずかに知り得るのは、Sarvaanandaの書いたアマラ・コーシャの注釈 #Tiikaasarvasva によってである。その注釈の中では、Gopadattaの名で、半偈が引用されている。その半偈はHahn(1980b)によって<註2>、Jaatakamaalaavadaanasuutra(JMAS)の第43話 %Svan の中の偈と同じであることが指摘され、従って、この第43話 %Svanは、GopadattaのJaatakamaalaaの一部である有力な根拠を得た。このJMASは、上のHaribha#t#taの節で述べたように、第1話〜34話がAarya%suura のJaatakamaalaa、第35話〜43話がGopadattaのJaatakamaalaa、第44話〜53話がHaribha#t#taのJaatakamaalaaから成っている作品集であると推定され、Sarvaanandaの引用するGopadattaの半偈が第43話に見つかったことは、第35話〜43話をGopadattaのJaatakamaalaaからの借用とする推定を、裏書きするものである。HahnはまたAvadaanasaarasamuccaya(ASS)という写本中の、Haribha#t#taのJaatakamaalaaの前にある出 典不明の第1話〜5話をも、GopadattaのJaatakamaalaaに帰している。このことも、先に述べた。
こうして、Hahn(1977, 改訂1992)は<註3>、その1977年の版で、初めて写本JMASの中から合計10話を(第35話〜43話の合計9話のほかに、3節から成る前置き部分にも第1話(Suprabhaasa)が見出されるため )、また写本ASSから(1〜5話の)合計5話を、GopadattaのJaatakamaalaaの一部として回収したが、両者の間で3話が重なっているので、下に示すように、合計12話となる。そして、その中の1話(%Svan)が、Sarvaanandaの引用によって確実にGopadattaのものであることが確認できたわけである。
1. Suprabhaasa JMAS 0.3
2. #R#sipa%ncaka JMAS 35 = ASS 1
3. Saarthavaaha JMAS 36 = ASS 2
4. Sarva#mdada JMAS 37 = ASS 3
5. J%naanavatii JMAS 38
6. Kapii%svara JMAS 39
7. Megha JMAS 40
8. Maat#rpo#sahastin JMAS 41
9. Naaga JMAS 42
10. %Svan JMAS 43
11. Matsaraananda ASS 4
12. Bhavalubdhaka ASS 5
Hahnはこのほかにも、GopadattaのJaatakamaalaaの一部を3話、現存する写本資料の中から探しだしている。
まずDivyaavadaana第38章Maitrakanyakaが、GopadattaのJaatakamaalaaの1章として加えられる。Klaus(1983)によれば<註4>、Divyaavadaanaの末尾に、明らかに異質なGopadattaのMaitrakanyakaの章が付いていたわけは、現存するDivyaavadaana写本の元の写本(archetype写本)が、その部分の葉をBodhisattvajaatakaavadaanamaalaa(BJAM)写本から取ったためである。そのため、現存のBJAM写本にはMaitrakanyakaが存在しないが、本来はあったことは、元のBJAM写本をコピーしてできた現存のJMAS写本の中に、このMaitrakanyakaが54話として入っていることから、知り得る。
さらに、チベットの寺院で発見された、kaavyaらしい5葉から成るコロフォンの欠けた断片写本は、Saa+nk#rtyaayana(1937)の写本目録中に、その全文の転写が載せられたが<註5>、後にHahn(1977)によって、GopadattaのJaatakamaalaaの部分と推定された。作品名が欠けているため仮題として*Ajaata%satruと名付けられたこの部分は、上でGopadattaの作として挙げた1. Suprabhaasaの部分と、合計12詩節を共有している(Suprabhaasa第63〜74詩節=*Ajaata%satru第41〜46、49〜53、67詩節)。
さらに、A%sokaavadaanamaalaa の13章、Pu#nyaraa%syavadaana はHahn (1990) によって<註6>、GopadattaのJaatakamaalaaの一部である可能性があることが指摘された。同じA%sokaavadaanamaalaa の11章 Saptakumaarikaavadaanaと第12章 Bhavalubdhakaavadaanaは、ともにGopadattaの作品を借用したらしい章であるが、それらにつづく位置にある第13章 Pu#nyaraa%syavadaana も文体がきわめてGopadatta のものに類似している。
これで別に伝承された3話が加えられ、GopadattaのJaatakamaalaaは合計15話が得られたことになる。
13. Maitrakanyaka
14. *Ajaata%satru
15. Pu#nyaraa%si
これら15話のうち、Gopadatta作が確かめられたものは1話(%Svan)だけであり、残り14話はあくまで仮説にとどまる。これらが本当にGopadattaのJaatakamaalaaかどうかは、G. Tucci(1933)によって<註7>その存在が報告された、GopadattaのJaatakamaalaaの写本を見ることによって、確 かめられたであろう。Tucciが入手したその断片写本のコロフォンには<註8>、Gopadattaの作者名と、D#r#dhaadhyaa%sayaavadaanaという1話の題名が記され、全体では3300 grantha(詩節)から成る作品であることが、記されていたという。3300 granthaの作品とは、Hahn(1977)の計算では、Aarya%suuraのJaatakamaalaaよりやや小さいくらいだという。この貴重な写本はどうしたものかその後紛失してしまい、Hahnの捜索にもかかわらず、未だ見つかっていない。
Gopadattaの作品としてはジャータカマーラーのほか、単独に伝承された作品としてSaptakumaarikaavadaanaがある。そのサンスクリット写本は、パリのBiblioth#eque Nationaleに 、1本のみ存在している(Filliozat 142)。Gopadatta作であることは、コロフォンから 確かめられる。このサンスクリット写本と一致するチベット訳もテンギュル部にあり(東北 4147, 4506)、そこでは作者名はGsa+n bas byin (Guhyadatta) となっているが、Gopadattaの誤伝と見てさしつかえない。チベット訳はLobsang Dargyay(1978)に研究・独訳されたが<註9>、その時まだサンスクリット写本は参照されなかった。サンスクリット写本の校訂テキストはHahn(1977, 改訂1992)によって発表された。この極めて誤りが多い1本の写本に対しては、写本A%sokaavadaanamaalaaにおける副伝承、ならびにカトウマンドウの National Archivesに貝葉写本としてあるSaptakumaarikaavadaanaの注釈書Saptakumaarikaavadaana#tiikaa (NGMPP A936/3, 59 fols.)を用いることによって、オリジナル・テキストが修復できるとHahn (1985b)は報告している<註10>。このSaptakumaarikaavadaanaは、本来GopadattaのJaatakamaalaaの一部であったのか、あるいはGopadattaの単品として扱うべきか、問題であるが、Hahn(1980a)は<註11>GopadattaのJaatakamaalaaの一部との確信を得ている。
Hahn(1984)は<註12>このGopadattaのSaptakumaarikaavadaanaの中に、Candragominの%Si#syalekhaと極めて類似する表現を発見し、Gopadattaが先行者Candragominの影響を受けたことを明らかにした。
以上にあげた作品のほか、Hahn(1985c)によると<註13>、Gopadattaの作品であることが疑われるものとして、BJAM第12話(JMAS第55話)の%Saakya%si#mhaと、BJAM第13話(JMAS第56話)のKarmaplotikasuutra、およびSubhaa#sitaratnakara#n#dakakathaa があげられるという。Hahn(1977, 改訂1992)の、1992年の改訂版には、新たにPu#nyaraa%siと、%Saakyasi#mhaと、Karmaplotikasuutraの3話が、GopadattaのJaatakamaalaaの内容リストに加えられている。
それでは、次にGopadattaのJaatakamaalaaの一部と推定された15話に対し、これまで個別的になされたテキスト校訂・研究をあげてみよう。
6. Kapii%svaraは、Hahn(1980a)によって<註14>JMASの2写本を用いて梵文テキストが校訂された。異読・文献学的な註、ならびに内容分析と並行話研究の序論が付けられている。
5. J%naanavatiiは、Hahnの弟子G. Ehlers(1980)によって<註15>、JMASの3写本を用いて梵文テキストが校訂され、独訳が付された。作品に素材を提供した直接のソースはSamaadhiraajasuutraの第34章J%naanavatii-parivartaである。(Samaadhiraajasuutraの同章は、F. Weller(1973) の独訳がある<註16>。)
13. Maitrakanyakaは、Divyaavadaanaの一部としてCowell & Neil(1886)および Vaidya(1959)のテキストが出版され<註17>、Brough(1957)の原典批判があるが<註18>、Hahnの弟子K. Klaus(1983)によって<註19>新たにJMASの龍大写本 (R) を用いて再校訂がなされ、独訳をつけて出版された。序論でKlausは他の Gopadattaの作品との比較研究を行ない、質的同一性を確かめ ようとした。韻律・語彙・文法・様式・文体を比較した結果は、MaitrakanyakaをGopadattaの作品と確認するに至らなかったものの、その可能性は十分あることが示された。
14. *Ajaata%satruは、Saa+nk#rtyaayana(1938)が写本目録 Journal of the Bihar and Orissa Research Society XXIV, pp.149-158に載せた、5葉の写本の全文の転写から、原文を知ることができるが、Hahn(1981a)によって<註20> 、その梵本テキストの校訂が行なわれた。 校訂に際しては、Saa+nk#rtyaayanaの転写と 、Saa+nk#rtyaayanaに同行した写真家 Fany Mockerjeeが撮影した5葉の写本の裏面 14b, 15b, 16b, 17b, 18b を撮影した1枚の写真が用いられた。(写本の表面 14a, 15a, 16a, 17a, 18aを写したもう1枚の写真もあるはずであるが、失われたのか、写されなかったのか、Hahnは入手できなかった。)またHahnはこのGopadattaの作品の特徴を捉えるため、内容・修辞法・韻律を分析した。
15. Pu#nyaraa%siは、Hahn(1990)により、校訂テキストならびに英訳が発表された。校訂には5本のA%sokaavadaanamaalaa写本が用いられた。
さらに、上で述べたように、ASS写本には合計5話のGopadattaのJaatakamaalaaのテキストが入っているが、それらはスリランカのHandurukandeによって研究された。すなわち、
2. #R#sipa%ncaka
3. Saarthavaaha
4. Sarva#mdada
11. Matsaraananda
の4話がHandurukande(1980a) (1980b) (1981b) (1981c)によって<註21>、それぞれ内容が紹介された後、それに続いて、それらの章と
12. Bhavalubdhaka
の章を加えた合計5話の梵本テキストおよび英訳が、Handurukande(1984)によって<註22>出版された。Handurukandeは校訂にあたって、ASSの唯一の写本 (Bendall Add.1598) とJMASの3写本 (Matsunami 139; Sanada 608; BSP t#r24(1-258)) 全部を利用した。また、5話のうち4話はそれぞれアヴァダーナマーラー類に詩形改稿本をもつが、それら詩形改稿本も原本の詩節をそのまま取り入れているため、原本となった各章の校訂に使われ、それら詩形改稿本の梵文テキストは、巻末に付録としてあげられた。それらの章名と用いられた写本をあげると:
Appendix I.
Saarthavaahajanmaavadaanaparivarta ‥‥Saarthavaahaの詩形改稿本
Sa#mbhadraavadaanamaalaa4章(Skt.MS.: Matsunami 429)
Appendix II.
Sarva#mdadaabhidhaanamahaaraajaavadaana ‥‥Sarva#mdadaの詩形改稿本
Mahajjaatakamaalaa45章 (Skt. MSS.: Institut de la civilisation indienne 45;
Matsunami 285; Bir Library 142)
Appendix III.
Nandaavadaana‥‥ Matsaraanandaの詩形改稿本
Avadaanaratnamaalaa25章 (Skt. MS.: Matsunami 20)
Ratnamaalaavadaanakathaa24章(Skt. MS.: Matsunami 316)
Ratnamaalaavadaanakathaa20章(Skt. MS.: Matsunami 317)
Divyaavadaana20章 (Skt. MS.: Matsunami 170)
Ratnamaalaavadaana ?章 (Skt. MS.: Bendall Add.1592)
書名なし ?章 (Skt. MS.: NGMPP A117/9)
Nandaavadaana (Skt. MS.: IASWR LMHJ-000, 497-1/1)
Appendix IV.
Bhavalubdhakaavadaana‥‥Bhavalubdhakaの詩形改稿本
A%sokaavadaanamaalaa12章 (Skt. MSS.: Matsunami 35; Matsunami37; Bendall
Add.1482; %Saastrii 10755; ASB A.14 (= SBLN B.3))
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