次を見る


 2.Har#saの戯曲 Naagaananda

 戯曲Naagaananda(竜王の喜び)が、歴史上有名な、7世紀のHar#sa王(Har#sadeva, Har#savardhana, %Sriihar#sa, %Siilaaditya, 戒日王)の真作であることは、ほぼ確実とさ れる<註1>。Naagaanandaは、正確には仏教戯曲とは呼べないであろうが、仏教の影響が色濃 く反映した戯曲である。全5幕のうち、前半の3幕は、Vidyaadhara衆の王子JiimuutavaahanaとSiddha衆の王女Malayavatiiの恋物語にすぎないが、後半の第4・第5幕になって 大乗仏教的な捨身、自己犠牲の思想が出てくる。第4幕において、JiimuutavaahanaはGaru#da鳥の生け贄になる蛇族の一人に同情し、その身代わりになって死ぬことを決意し、その英雄的な行為を実行する。第5幕において、Jiimuutavaahanaの行為に感動したGaru#da鳥は二度と殺生せぬことを誓い、瀕死のJiimuutavaahanaはGaurii女神の恩寵により蘇生 する。

 Naagaanandaテキストはインドで異なる種類の注釈をつけた版が、現在までに数多く出版されてきており、刊行本の総数は恐らく30を越える<註2>。M. Hahn(1970)は<註3>Govind Bahirav Brahme& Shivaram Mahadeo Pranjape(1893)のテキストを使うことを勧めている。

チベット訳文と梵文を対照させたテキストはVidhushekhara Bhattacharya(1957)によって<註4>出版された。S. K. Pathak(1968)は<註5>蔵=梵の語彙集をつくった。

 翻訳は英訳が P. Boyd(1872)、T. S. S.Ayangar(1904)、B. H. Wortham(1911)を初めとして 、実にたくさん出されている<註6>。仏訳はA. Bergaigne(1879)とA. Dani+elou(1977)によって<註7>、イタリア語訳はF. Cimmino(1903)によって<註8>、和訳は高楠順次郎(1897)と原実(1966) によって<註9>なされた。

 Naagaanandaの梵文写本は、インドで排斥され滅びた他の仏教文献と異なり、極めて多数の写本としてインド全域で伝えられている。それらは伝承の系統別に、いくつかのヴァージョンに分けられるようである。

 M. Hahn(1981)は<註10>ネパールから見つかったNaagaanandaの古い3本の貝葉写本を報告している。西暦1155/1156年筆写のA写本 (NGMPP B15/14) と、1191/1192年筆写のB写本 (B15/13)、1318年筆写のC写本 (B15/7) である。BとCはAのコピーである。これらのネパ ール写本に見られる伝承は、Naagaanandaのチベット訳と極めて一致し、またベンガル系の写本伝承とも親近性をもつと

Hahnはいう。ネパール系写本伝承・チベット訳・ベンガル系写本伝承の3者は、恐らく同一源泉のグループを形成し、それとは大きく異なる中央インド系写本伝承とはっきり対立する。また、中央インド系写本伝承と南インド系写本伝承とを分離すべきかどうかは、研究の現段階ではわからないという。Hahnはネパール貝葉写本との対校を果たしたNaagaanandaチベット訳の校訂本の出版を、予告している。

Skt.MSS.: 写本の所在があまりに多いため、ここでは記載を省略する。NCC X, pp.10-11を参照。

なおNGMPP-Card には、上記3本の貝葉写本の外に、1葉の貝葉写本(E2321/5)が報告されている。

註を見るにはここをクリック